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②中澤さん、斉土さんの想い

【自然保育の現場】軽井沢町 森の幼稚園ぴっぴ
②中澤さん、斉土さんの想い

|文・写真・取材:地元カンパニー / 長野県出身

自然保育調査隊の小柳です。

今回は軽井沢町にある「森のようちえん ぴっぴ」にお邪魔させていただきました。
森の中でいろんな生き物に囲まれ過ごす1日は本当に気持ちがいい!
ぴっぴを立ち上げた中澤さんと斉土さんにお話を伺いました。


まずは中澤さんのインタビューです。

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森のようちえん ぴっぴ 中澤真弓さん(まゆさん)


保育の場としてここの場所を選んだ背景を教えてください。

まゆさん もともと2歳児を対象にした保育をやりたいと思っていたのですが、2歳児というのはまだそこまでしっかり歩けるわけではないので、完全な森の中だとすぐに転んでしまい、それが涙に変わって遊びが続かないということが起こります。なので漠然と森の中で保育をしたいというイメージはあったのですが、2歳児の保育に森だけの環境というのは適当ではないと思っていました。ここを見つけた時、広場もあり森もあるということがすごく気に入って、その日のうちに管理人さんのところに場所を貸していただけないかお願いに行くと、すぐに承諾してくれました。それから8年間、森と広場をお借りしてやってきたのですが、一昨年広場を別の活動で使用したいとのことで場所を空けてほしいと言われ、急遽引っ越しをしなければいけなくなりました。事情を知ったいろんな方から引っ越し先に関するお話をいくつもいただいたのですが、最終的にもともと使っていた森にこだわりました。巣立っていった子どもたちが「帰る場所」、家庭以外の母校のような存在を作っていく重要さを感じていたので、8年間の子どもたちが育ってきたこの場所をぴっぴの森にしたいと思いました。その際のお金は寄付を募ったのですが、いろんな方と丁寧に育んできた関係のおかげで、お金が集まりました。本当にありがたいことで「大切な幼児教育の場だからぴっぴをを続けなさい」って、何か見えない大きな力がいってくださっている気がして、「これは絶対ここでやめてはいけない」という思いを新たにしました。

野外で保育をすることの難しさはなんですか?

まゆさん 安全の確保です。ありがたいことに、ぴっぴを開園してから9年、こどもたちが負った怪我というのは本当にすり傷程度のものしかないのですが、外に目を向ければ東日本大震災が起こったり火山が噴火したり、いろいろな自然災害がたくさん起きています。ですので、日頃からスタッフ全員で土砂崩れや浅間山の噴火、クマや蜂に遭遇した際の対応など、とにかくどんなことにも対応できるように色んな想定をしています。
逆に野外保育の良さではないのですが、これまでおたふくとか水ぼうそうとか、普通保育園や幼稚園で流行りそうなものが一切流行っていないんですよ。おそらく野外で空気が澱んでいないということが大きいのだと思います。

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ぴっぴの入園希望者は移住世帯が多いと伺っています。地元出身者があまりいないというのは、長野で生まれ育つと森や山の存在が当たり前すぎて、自然に対してそこまで大きな価値を感じにくいということなのでしょうか?

まゆさん それは少しあるかもしれませんね。地元で育った人にとっては自然の豊かさが身近すぎるのかもしれません。私含め都会で育った人間は、都会の素敵な部分、例えば文化的な質の高さや、いつでもいいものがたくさん買えて不自由ない生活の恩恵を享受している一方、なにかそれが本当の豊かさじゃないような感覚をどこかしら感じているんですよね。そういうこともあり、最初はここが本当に良い場所なのか全くわかりませんでしたが、瞬間的に「この森が子どもたちを、大人たちを解放してくれるかもしれない!」と思った最初の感覚を大事にしたいと思ったんです。

ぴっぴはクラス分けがなく2歳から5歳まで全員一緒に過ごしていますが、日々どんな様子が見られますか?

まゆさん 普通の幼稚園や保育園はクラス分けがあり、2歳から5歳が一日中一緒にいる場はほとんどないかもしれませんね。下の子たちが上の子たちの話し合いの様子や喧嘩した時の解決の仕方を見て、学んでいることが非常に多いです。そうやって上の子たちを見て育つということに大きな意味があると感じます。どの子も学年に関係なくみんなのことを知っていて、癖やマイ棒まで知っています。4月に2歳の子が入ってきて慣れない環境で泣いたりしていると、大きい子たちが抱きしめてあげたり葉っぱや枝を使って遊んで見せてあげたりして、上の子が下の子をいたわる場面がすごく見られるんです。上の子たちも自分がそうしてもらったからそうするのですが、やはりこれだけ他学年が交わっているということはすごく大事なことだと感じます。4年間ここで過ごす子達の関わりが非常に豊かだと思いますね。

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ぴっぴの中で大切にしていることはなんですか?

まゆさん こどもがひたすら遊ぶことです。そしてひたすら関わること、ひたすら感じること。それがこどものベースだと思っていて、そういう伸びやかなこどもを見ていたら、親もなんだか伸びやかになるんですよね。
ひたすら遊ぶということは、嫌でも人と関わらないと続きません。朝と帰りに集まりがあって、それ以外は本当に自分たちで時間を使っていく生活です。3歳以上の子たちしかいない月、木はいろんなプログラムをするのですが、自分の意見を出す、人の意見を聞く、そこでどうやりとりするかということが非常に大事なことだと思っているので、都度話し合うことを大切にしています。

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2歳児は週3日、大きい組は5日という体制にしている背景はなんですか?

まゆさん ぴっぴを始めた当初は週2日でやっていたのですが、結局週2回で曜日も空いていると、ぴっぴにくることが「イベント」になってしまうんです。イベントではなく生活にならなければ育ちにつながらない。そこで火、水、金の週3日にしたら、前の日の遊びの続きができるようになり生活になっていったのでそのスタイルにしました。もう一つ、2歳児は家庭での生活がとても大切な時だと思っているので、週の半分は家庭、半分は集団生活にしました。5日が必要な大きい組の子どもたちはそこに月、木を加えました。

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無認可ということで運営費は全て保育料で補っておられると思いますが、何か思うところはありますか?

まゆさん そうですね。まず保育者については、きちんとお金をいただいて責任を持つということが大事な仕事だと思っているので、ボランティアを申し出ていただいてもスタッフとして働いていただけるようにお願いしています。みなさん本当に丁寧な仕事をしてくれているので、もっとお給料をもらうべきだと思っていますが、無認可なので補助も一切なく、本当に保育料だけで運営をしているのでそれも簡単ではありません。お母さんたちも補助なしで運営しているということをよくわかってくださっていて、例えばお子さんを二人入れるとなると多少割引はありますがそれなりの保育料がかかってくるところ、「お金に変えられない」といって踏ん張ってくださっているんです。
そんな親御さんたちを見ていると、みんなが同じように税金を払っているので、認可無認可問わずに補助が出るべきだと思うんです。ぴっぴに対してというよりも、各ご家庭に出てくれたらいいなと思います。今は町がなんらか補助をするということになれば、県も同額補助する制度があるということなので、市町村の方がその気になってくだされば道が開けていく可能性があります。これからは行政とのやりとりも非常に大事だなと思っていて、今回の認定制度がその一つのきっかけになってくれそうな気配があるので、これを機会に補助のあり方についても働きかけていきたいと思っています。

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東京で20年近く幼稚園の教諭をされていたと伺っています。そこで感じていた問題意識は何かありますか?

まゆさん 幼稚園は3歳から入園できるのですが、そこで入園してくる3歳児と親御さんの親子関係がなんとなく不自由そうに見えることが気になっていました。素敵なお母さんたちがたくさんいたのですが、なにか周りを気にしすぎていたり、変なものに縛られているようなお母さんたちが年々増えてきているように感じていました。それで、「どうしたらこの親子関係が心地よくなるんだろう」ということを勤めながらずっと考えていて、そのうちに、幼稚園に入る前の子育てや家庭環境の影響が大きいということをすごく感じるようになりました。
2歳児の持つ力には本当に驚かされます。2歳という年齢は言葉が増え、考える力や運動能力や器用さや体力など様々なものが大きく育っていく時です。でもまだバランスが整っていなくて、例えばこどもが紙をはさみで切りたいと思ってもそこまで器用さが育っていないからちゃんと切れなくてイライラするとか、頭で考えることと体の使い方が一致しない現象がとても多いんです。こども自身の心と体が大きく揺れ動くエネルギッシュな一年間に、それがこどもの成長の一過程だということがお母さんに見えてこず振り回されてしまい、それを押さえつけたり放任にしたりと、違った形でこどもと過ごしてしまうんです。その時期に第三者が一緒に寄り添えれば、「この子は今こんな状態だからこういうイライラがあるんですよ」と育ちの状況を伝えてあげられたり、悩みを聞くことでお母さんをホッとさせてあげられたりして、それによって親子関係がもう少し変わっていくのではないかということが私のひとつの仮説だったんです。なので、こういう自然の中で保育するということと、もう一つは2歳児に寄り添うということが私の夢でした。

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個人的な考えですが、一人一人が持っている個性を十分発揮することがその人の幸せにつながることで、できないことに目を向けるのではなく、できることを存分にやったらいいんじゃないかと思っているのですが、そういった考えと自然保育の間に何かつながりは考えられるでしょうか?

まゆさん それって連鎖のような気がすごくしています。こどものことをありのまま受け止める保育者がいるということはすごく素晴らしいことで、それは都会だろうと田舎だろうと、どこでもできることだと思います。一方、この森にいることで感じているのは、保育者自身が頑なにならないことが自然になっていき、こどもたちを頑なに見なくなっていくように思います。「色んな可能性があるんだなぁ」ということをまず保育者自身が森との出会いの中で気づき、自分自身を優しく捉えるようになる経験をします。そうすると、スタッフ同士がそれぞれをありのままに受け止め合えるし、スタッフの心地良さが今度はこどもたちに向かっていき、こどもたち自身が心を抱きしめられているような経験をするようになるんです。その嬉しさが、今度はお友達の心を優しくしてあげられるような、お互い許しあえるような関係性を育てていきやすいのではないかと感じています。
ここを始める際に、「とにかく苦手なことはしない」と決めたんです。それぞれのスタッフが好きなこと、得意なことをやっていこうと話し合っています。好きなことをやっている人から学ぶ事ってすごく多いんです。
こどもだけではなくて、スタッフも保護者も、それぞれが心地いい関係を築いているということが、この森にいると自然に理解できる。とても不思議なことですが、本当にこの森に出会ってよかったと思います。

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ぴっぴのHPの中に「保育や教育に関わる仕事をつうじて、わたしたちはなにをしているのだろうか?」という問いがありました。現時点でまゆさんはどのように考えているのでしょうか?

まゆさん 結局「保育」とか「教育」というよりも、一人が一つの人格として引け目を感じることなく、自分らしくいられるということがお互いに守り合えるような関係を築いていくことかなと思っています。だから「教育や保育の相手としてのこども」というよりも、どんなに小さくても一人と一人というような感覚が非常にあります。かっこいい意味ではなく、そういう関係の中で私自身がこどもから教えられたことは山ほどあります。
そんな中最近少し気になっているのが、ぴっぴの中でいい仲間関係が育まれ、この仲間だからこそ安心して自分を出せる子もいるんですね。この仲間が居ないところにいくとなかなか自分を出せなかったりする子が卒園生の中にもいて、ここから出て自分で一歩踏み出しても出せる力をつけていってあげたいと思っています。
終わりがないんですよねこの仕事って。本当に次々に感じることがあるんです。

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幼稚園を運営していく上で、こういう機関や仕組みがあったらいいなというものはありますか?

まゆさん 今だいぶよくなってきていますが、市町村と私たちをつなぐ何かがあれば、もっと早く市町村と連携できるなということはすごく感じます。それから、できれば各幼稚園保育園とつながりながら、地域みんなでこどもを育てていきたいという思いがあるので、そういう横のつながりをつないでくれる仕組みがあればいいと思います。

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少し話は逸れますが、まゆさんご自身は4人のお子さんを育てられたと伺っています。お仕事は継続されながら子育てをされていたのでしょうか?

まゆさん 私の場合は長女が生まれてから4人目の長男が1歳になるまで、仕事を辞めてどっぷり育児に携わっていました。子育てを他人に任せるのがもったいなくて。でも実際にやってみて感じたのは、100%こどもの方に目を向けていたら、その子が苦しいんですよね。だからお母さん自身が適度に仕事をしていたり何か別に自分の世界を持っていて、子供の様子を片目つむって見る程度じゃないといい親子関係が育たない気がします。それなりにお母さんの時間を持って、ちょっと見て見ぬフリできるような時間を作っておいたほうがいいと思いますね。

今後新たに取り組んでいきたいと考えていることはありますか?

まゆさん こんなに豊かな森があり、9年間この森の中で子どもも大人も変えられてきました。自分らしさが出せるようになったこどもたち、楽な気持ちで穏やかに日々を過ごせるようになった色んな人達を見てきて、やはり森は「一つの確かな育ちの場なんだろうな」と思うんです。もちろんこれが全てではないと思うのですが。
なので、こうして何とか9年間やってきて感じたことを、今度は外に向かって発信していく番かなと思っています。決して「ぴっぴがいいんですよ!」ということではなく、「森の中っておもしろいですよ。出てみませんか?」という発信です。私たちの発信が何かきっかけになり、長野県中のこどもたちが森や里山に出て、みんなが自分の気持ちを解放できる時間を持てるようになることをしていければいいですね。


中澤さんへのインタビューは以上です。



続いて斉土さんにお話しを聞きました。
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森のようちえん ぴっぴ 斉土美和子さん(わこさん)


森の中での保育を始められたきっかけはなんだったのでしょうか?

わこさん 娘が通っていた学童の指導員をまゆさんがやっていた当時、私は保護者会長をやっていました。ある時、「せっかくこんなに自然豊かな場所なのに、それを生かして外遊びをしている保育園や幼稚園が少ないね」という話で盛り上がって、その後あるキャンプのスタッフを二人でしたんですけど、その帰り道、「やっぱり幼稚園やりたいね」という話になりました。それが2006年の10月だったのですが、翌年の4月から開園しようと決めて開園したのがこのぴっぴです。

この森を見て、整備されているけれどされ尽くされていないような印象を受けました。

わこさん 完全に整備されていないからこそ、こどもたちや保護者のみなさんと一緒に作り上げることができるんです。保護者のみなさんはそれぞれ何かしら得意なものを持っていて、それをぴっぴに活かしてくださいます。自分たちの場所となった今、まさにどのように整備していこうかと考えているところです。そこでも、親御さんの中に造園のデザインをされていたお母さんがいらっしゃってご助言をいただいて、本当にありがたいなと思います。

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今課題として感じていることは何かありますか?

わこさん 嬉しい悲鳴で年々こどもたちの数が増えてきているのですが、スタッフの数も限られている中、どうバランスを取るかいつも悩みます。外で保育をする上でやはり危険があってはいけないので、一人一人をしっかり見るためにも少ない人数で始めたのがもともとです。過去に一度入園者を抽選した年もありました。でもその時、せっかく心を寄せてくれた人たち全員が入れないということをすごく心苦しく感じて、その後はやめました。

信州型自然保育認定制度が制定されましたが、制度について何か思うところはありますか?

わこさん 認定を得るためにこれまでなかった事務的な作業も発生してくると思うのですが、そのことによって肝心の保育がおろそかにならないようにしていきたいです。もともとここを始める前、まゆさんが長年東京で幼稚園教諭をしていた際に保育以外の雑務で追われる時間がすごく多く大変だった経験があり、ぴっぴはなるべく体制をスリムにして保育に集中できるようにしたいと始めた経緯があります。その姿勢は崩さず大事にしていきたいと思います。
また、この制度が普及して例えば普通の保育園・幼稚園でも自然を活用した保育をこれまで以上に取り入れるようになることで、みんなが自然の恵みを享受できるようになるといいなと思います。それぞれのご家庭の事情があり、みんながみんな森のようちえんのような場所に通えるわけではないので、今後森のようちえんのような場所が増えるというよりは、一般の幼稚園保育園でもこういうことに目を向けた活動が増えるといいなと思います。

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一般的な保育園幼稚園でぴっぴのような自然保育を取り入れる際、壁になりうると考えられることはありますか?

わこさん 一般的な保育園幼稚園では日案やいろいろな行事があり、保育園に対するニーズも多様、また保育士一人あたりで見ているこどもの数も多いので、なかなか自然に目を向けられないという話は聞きます。でも、結局バランスだと思うんですよね。「保育はこうでなければいけない」と思い込んでいるものがあるとすれば、いろんな方にこういう保育を見ていただき実際に体感してもらって、一つの考えるきっかけにしてもらえればいいなと思います。森の中は気持ちいいですし大人でも解放されるし、来てもらえれば絶対に感じてもらえると思います。

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森にいると、なぜ解放感を感じるのでしょうか?

わこさん 私は田んぼや畑にいると、やっぱり人間も生き物の一部だという感じがするんですよ。人間はいろんな意味で突出しすぎていますが、その辺にいるりすとか虫とか、そういう生き物の生態系の一部にいるような。森に来て色んな命と一緒にいることで、自分が色んな命と共に生きていて、なおかつ生かされているということを実感し、心が安らぐのかなぁと思います。


取材は以上です。

中澤さん、斉土さんが口を揃えておっしゃっていた、「森の中では大人も子どもも関係なく解放される」ということを私自身も1日の取材を通じて体感しました。また、年齢関係なくみんなで交わって遊ぶスタイルは、ひと昔前に比べ兄弟の数が減り異年齢との交わりが少なった昨今に於いては、子供たちにとって一つの重要な学びの場だと感じました。

兎にも角にも体感してみるのが一番。見学も快く受け入れているぴっぴさん、少しでも興味があれば是非足を運んでみてください。

まゆさん、わこさんに加え、当日お世話になったスタッフしんさん、みほさんにもインタビューをさせていただきました。(インタビュー内容はこちらから!